花粉症の乱【主張】10月1集(生保版)

花粉症の乱
 厚生労働省の人事異動のニュースが、社会保障関係の雑誌に紹介されていた。新しい保険局長が、取材に応じて「医療保険制度の改革に哲学を持って取り組む」と抱負を述べている。哲学の言葉に興味がそそられて読んで見ると、哲学とはほど遠い給付と負担の話に終始し、しかも給付すなわち医療サービスについては何もコメントされていない。結論として応能負担の実現が、新局長の抱負であり哲学だったので、記事を読んだだけ時間の無駄だったと感じた。現在、日本の医療保険が直面している、給付のあり方に関する課題解決への意気込みが感じられないからである。
今年の春はインフルエンザの蔓延で、外来患者から感染するのが嫌で診療所へ行かずに、薬局で花粉症の治療薬を購入した。包装箱に「セルフメディケーション税制適用」の表示があるかを確認したことを覚えている。
 花粉症の治療薬に関しては、自費にすべきとの健康保険組合の提言が、ニュースバリューが高く、大きくマスコミ報道されていた。国民の総医療費が経済成長率を超える自然増が続き、公的医療保険の継続性維持のために様々な提言が行われているが、特に医療費の20%を占める薬剤費に対しては、抜本的薬価制度改革など厳しい提言が続いている。その結果、長期収載品引下げ、市場拡大再算定による引下げ、薬価調査の見直し、高額医薬品の適正使用ガイドラインの導入、費用対効果指標の導入など、数え上げてもキリがないほどである。医薬分業の推進で調剤薬局のチェーン展開が大きく進展したが、調剤報酬引き下げの逆風は、大型ドラッグストアの合従連衡が進展しているという報道に繋がっている。これも薬剤費用を巡る大きな動静の一端であろう。
花粉症治療薬の保険免責は、がん治療キムリアなどの超高額医療と公的保険を如何に共存させるかという議論の一環として報道されたが、そのような論評に何か違和感を感じた。健保組合は、本年5月に保険給付について提言し、同8月に5項目の給付適正化を公表している。背景の提言を取り上げずに、花粉症治療薬の話だけ取り上げると、問題を矮小化して報道することになる。医師会は、当然健保組合の公表に反対論を展開しているが、それぞれの見解内容の是非はさておき、国民にとって公的医療保険の将来像を保険免責論も含めタブーなく議論されなくてはならない。
 現在、厚生労働省には多くの審議会が開催されているが、年金などの社会保障に関する議論と比較して公的医療保険については、新局長の抱負と同様に、給付についての根本議論に踏み込んでいない印象は拭えない。安全で有効な医療の提供と、公的医療保険の給付範囲という制度設計のあるべき姿こそが、考えるべき哲学なのであろう。その先に、公的保険の補完を担う民間保険の役割も見えるはずである。        (客員・佐々木)